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    練吉は小学校時分のことを思ひ出したのかふいにをかしさうに笑ひ声を立てた。

    「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」

    「それに――」

    「お礼ですか」

    その一揃ひの紙衣裳を見て、道平はまじめに感心した。

    暑さはもうなかつたが、生温いぬくもりが時々顔を打つた。房一は空腹を覚えた。それにぼんやりとした疲労があつた。道平が卒倒してからは、まだ一週間になるかならぬかであつた。だのに、もう半年も前から、こんな気忙きぜはしい状態がつゞいているやうに思はれた。

    「あれは何でせう、知吉さんといふ人は悪く云ふと娘をひつかけて相沢の家に入りこんだやうなもんでせう」

    何かしら、すつ飛んでしまつた。白い光るものも、鬼倉の隈取くまどりのやうに荒い皺の走つた顔も、それからあの、もやもやした怒りも。そして、ぼんやりとして次のやうな話がとり交はされるのを聞いていた。

    「それで、何かね。ドイツ兵は徒歩てくで通るんかね」

    町の一部では房一が「席を蹴立てて帰つた」といふ評判だつた。それが何か乱暴でも働いた、といふやうに伝つて、噂を聞いた老父の道平は河場からわざわざ様子を聞きに来た。

    と、彼は恐しく手まどつて答へた。

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